
近年、最低賃金の引き上げが全国的に進む中で、企業の給与制度や労務管理の在り方が改めて問われています。
特に、固定残業代制度を導入している企業にとっては、最低賃金との整合性が重要なチェックポイントとなり、制度の設計や運用に対する法的・社会的な目も厳しくなっています。
本編では、最低賃金制度の基本から、固定残業代との関係性、企業が陥りやすい落とし穴、そして社労士による支援の可能性までを体系的に整理し、企業が今後どのように制度を見直し、運用していくべきかを考察します。
1 最低賃金制度の基本とその意義
最低賃金制度は、労働者の生活の安全と労働条件の改善を目的として、国が賃金の最低限度を定める制度です。
都道府県ごとに異なる金額が設定され、毎年見直される傾向にあります。
2025年度現在、全国加重平均は1,221円となり、過去最大の引き上げ幅が実施されました。
最低賃金は、時間額で定められているため、月給制の社員であっても、実際の労働時間に換算して最低賃金を下回っていないか確認する必要があります。
企業は、この制度を単なる法令遵守ではなく、従業員の生活を支える基盤として捉えるべきだと考えます。
2 固定残業代制とは何か
固定残業代制とは、あらかじめ一定時間分の残業代を定額で支給する制度です。
給与計算の簡素化や残業代の見通しを立てやすくするメリットがありますが、制度の設計と運用には慎重さが求められます。
特に、制度の導入に当たっては以下の3点が重要です:
3 最低賃金と固定残業代の関係性
最低賃金の算定において、固定残業代は基本給とは別に扱われます。
つまり、固定残業代を含めて最低賃金をクリアしているように見えても、基本給部分だけで最低賃金を下回っている場合は違法となります。
例
 東京都の最低賃金は、2025年10月現在1226円です。
 月160時間勤務の社員には最低でも195000円の基本給が必要です。
 これに満たない場合、固定残業代を含めていても、違反となる可能性があります。
このような誤認は、企業の法令違反だけでなく、従業員の信頼関係の崩壊にもつながりかねません。
4 企業が陥りやすい落とし穴
企業が固定残業代制度を導入する際に陥りやすいポイントは以下の通りです。
・固定残業代の内訳が曖昧で、基本給との区分が不明確
 ・実際の残業時間が固定時間を大幅に超えているのに追加支給がない
 ・固定残業代を含めて最低賃金を満たしていると誤認している
これらはすべて、労働基準法違反につながる可能性があり、企業の信用や法的リスクに直結します。
5 社労士による設計制度と運用支援
固定残業代制度は、適切に設計・運用すれば企業にとって有効な制度だといえるでしょう。
しかし、法令遵守を前提とした設計制度が不可欠です。
ここで、社労士の専門性が活きてきます。
社労士は、最低賃金との整合性を確認しながら、就業規則や雇用契約書への明記、制度の運用ルールの整備を支援します。
また、労働時間の実態把握や、残業代の追加支給の要否判断など、実務面でも企業をサポートします。
6 適正な制度運用が企業価値を守る
最低賃金と固定残業代の関係は、単なる給与計算の問題ではなく、企業のコンプライアンスと労働者の信頼に関わる重要なテーマです。
制度を正しく理解し、適切に運用することで、企業は法的リスクを回避し、働きやすい職場環境を整えることができます。
社労士の支援を受けながら、制度の見直しと運用改善を進めることが、
 これからの人事・労務のスタンダードとなるでしょう。
参考:

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